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TNRの難しいお話

TNR(Trap,neuter,return)=昔でいう野良猫ちゃん、現在の地域猫を捕獲(トラップ)して避妊手術(ニューター)を施し、元の場所に(リターン)戻すこと  略してTNR に関してあまり日本語で学術的な研究のデータなどが書いてあるブログが無かったので、今日はそれについてみなさんとシェアしたいと思います。




TNRのコンセプトは1970年代にデンマークとイングランドで導入されたといわれています。アメリカではここ数十年で広まりました。日本でもまだまだ未発達な部分はありますが、ボランティアのみなさんのおかげで少しづつですが広まっていってるのが現状であります。

実はアメリカの獣医師や専門家の中でもこのTNRに反対の人はいくつかいるのです。(Patronek 1998)

なぜ、彼らは反対かといいますと、

  • ズーノーシス(人獣共通感染症)の恐れ

  • 生態系の問題

  • 手術のコスト

  • リリースした後の猫たちのQOL(クオリティーオブライフ)の問題

  • リリースした後の猫は野生動物なのかの疑問

  • ほかの野生動物と猫はどのように違い、なぜ猫だけそのように扱うのか?


といった彼らの疑問があります。(Mahlow & Slater 1996)

たしかにその通りだと思いますし、特に最後の”ほかの動物とは猫はどのように違い、なぜ猫だけそのように扱うのか?”

ここに関しては僕自身獣医としても答えがありません。

なぜタヌキやキツネには避妊去勢しないで、猫にはするのか・・・

そんな反対意見もあるのが現実ですが、しかしながら、猫が繁殖しすぎて社会に対して複数の問題(騒音・悪臭・感染症など)をもたらしているのも現状なのです。そこで猫と人間が上手く共生していくためには、このTNRが効果的な方法であり、エビデンス自体存在するからです。(Zaunbrecher & Smith 1993; Levy et al. 2003)

まず、このような研究が存在します。

避妊去勢していない猫のコロニー(群れ)に比べ、避妊去勢した猫のコロニーは猫の頭数が減少したという研究結果が出ています。(Stoskopf & Nutter 2004)

しかしながら、他のいくつかの研究は結果が異なっています。それにより、TNRには良い点も悪い点も見えている(Levy et al. 2003; Stoskopf & Nutter 2004; Natoli et al. 2006)  のが実際なんですね。

その悪い点とは

やはりどうしても長い時間がかかるということです。

TNRの研究で有名なイタリアのローマの研究(Natoli et al. 2006)

を紹介したいと思います、知っている方もいらっしゃるかもしれません。

8000頭の猫を10年以上のスパンで避妊去勢を行いました。その結果、16-32%の猫の頭数は減少したけれども、このことは最初の3年は少なくとも全く示されていなかったのです。また、減少はしているが思ったほどでないというのが現実でした。

それはなぜか・・・

猫の新たな放棄や自然の流れでコロニーに猫が流入してくること自体21%あったせいで、避妊去勢した分が相殺されていたのです。

要は、TNRにより一生懸命猫ちゃんの頭数を減らしたのにも関わらず、放棄が増えたのです。

猫の飼い主たちは安楽死されるシェルターに預けるのではなく、‘’GIVE THE CAT A CHANCE‘’と考えるようになったとある研究(Levy & Crawford 2004)では書いてありました。

次はアメリカのノースカロライナの研究です。(Stoskopf & Nutter 2004)

6/9のコロニーは避妊去勢プログラムを受け、3/9はコントロールコロニー(避妊去勢プログラムを受けていない)

6/9のコロニーは平均36%猫の頭数は減少し(最初の2年以内に)、また3/9のコロニーは47%猫の頭数は増加した(最初の2年)という結果になりました。この研究により、急速に減るわけではないが、実際に効果ありという結果になりました。

次はアメリカのセントラルフロリダの研究です。(Levy et al. 2003)

この研究は11年に及ぶ研究でありました。1991-1995年は155頭の猫の避妊去勢が行われ、1996年には68頭まで猫の頭数が里親に出されたり、避妊去勢が施されました。2003年には23頭の猫のみになりました。

このように長い時間TNRが成功するには時間がかかるという悪い点もありますが、それでも成功している例もあるというわけですね。

TNRの良い点ですが、

避妊去勢後のボディーコンディションが改善されたという報告もあります。(Scott et al. 2002)

・体重48%増加

・放浪の頻度減少

・ケンカの頻度減少

TNR後の騒音と臭いが改善されたという報告もあります。(Zaunbrecher & Smith 1993)

この研究はアメリカの病院で猫が繁殖してしまい、TNRを実施した研究です。実施後は、猫の頭数が安定しただけでなく、健康状態も改善され、テリトリー争いや騒音も減少しました。

それにより、病院の人たちが保護的な考え方を持つようになり、猫たちをペットとして扱うようになったという研究結果があります。

このように、TNRにはもちろん長い時間かかってしまうことで逆効果になる可能性があることも確かです。

しかしながら、今日示した研究結果のようにTNRは外猫たちのQOLをあげるとともに、里親に出される子が増え、自然淘汰される子もおり、また、子猫の誕生を防ぐことができるというエビデンスが存在しています。

TNRを成功させるためには

中途半端にするくらいならやらない!
やるならトコトンやる!

これが1番の理想の猫と人間の共生を目指す方法ではないでしょうか?




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